海外でハリポタ越えと言われているファンタジー作、パトリック・ロスファス著のキングキラークロニクルシリーズ第1作目
『風の名前(The name of the wind)』
をご存知でしょうか。
物語もさることながら、特筆すべきはその”文章美”。並べられた文字が、
- 主人公の心の緊張を読者にまで伝える
- 暗い夜道、汚れた路地、そんな情景さえ目の前に広がる
- ページをどんどんめくらせる
そんな魅力を持っている作品です。
”風の名前”を読んだことがない人は、人生で一度も焼肉を食べたことがない人のように、控えめに言って人生損してる!
ということで、地味に読書家な筆者が最もおすすめする本、『風の名前』について、今日は語っていこうと思います。笑
”風の名前”の魅力

ネタバレしない程度のストーリー概要
ファンタジーという言葉でイメージする典型ストーリーといえば、
- 両親を幼いころに失う
- 主人公は天才
- 魔法を使えたりする
- ヒロインの危機を救う
- 嫌味を言ってくるライバルみたいなやつがいる
- ドラゴンを倒す
などですよね。『風の名前シリーズ』はこの辺りの基本には忠実で、作中に全部、出てきます。
- 両親を殺され、貧困生活を抜け出すために犯罪を犯した子供時代
- 底辺生活から大学に入り、魔法学を学んだ過去
- 旅の途中で出会った少女に恋をしたり
- 信じた人に裏切られ、すべてを失ってしまうかもしれない危機に面したり
など、ありきたりにも思えるストーリーを展開していくのです。しかし、他の作品と異なるところは、これらの物語を如実に表現している文章美。
”本を読んでいるのに、映画を見ているかのような感覚になる”という言葉でさえ、月並みな表現に思えるほどです。
目に見えない感情や表情を映し出す文章美
正直に言って、この作品以上に物語の中に入り込んで”本の世界”を感じたことは今までありません。
目の前にあるのは本という”紙”と”文字”だけなのに、その文字たちが、喜び、緊張、人間の心の汚さまで、脳内に鮮明に描き出すんです。
主人公の恋路になぜか私の心臓がバクバクしたり、自分の人生よりも大切な楽器を演奏するステージで、あたかも自分がこれから演奏するかのように緊張したり。
はたまた、ウザいキャラがいちいち突っかかってくる態度に心の底からイライラしたり。
- 怒っている
- 緊張する
- 喜んでいる
- 感動している
- 恋をしている
など、目に見えない感情まで読者に伝えてくる芸術のような文字の流れに感心せずにはいられないでしょう。
中でも、数年ぶりに再会した片想い中の女の子とデートしたあとの一言は、今でもたまらなく好きです。
私を盗んで、と彼女は言った。
もっと大胆になって彼女にキスをすべきだった。もっと慎重になるべきだった。
言葉が多すぎた。言葉が足らなかった。
たったこれだけなのに、主人公の初恋の相手との関係への歯がゆさ、初々しさが一瞬で伝わってくると思いませんか。
読者を引き込む、現実的ファンタジー観
感情さえ鮮明に映し出す文章美に加えて、読者をさらに作中に引き込む”現実的ファンタジー観”も、この作品の魅力だと思っています。
- 主人公は天才なのに、人の何倍も苦労しないと手に入れられなかった魔法
- その魔法という能力を手に入れても法律に規制され、結局自由には使えないもどかしさ
- そもそも魔法は科学という概念
- 主人公なのにお金に困り、騙される
- ヒロインを命がけで救っても振り向かれない
- 一生懸命だけど、あんまり物事が上手くいかない
何だか、現実世界みたいでしょ…笑
ファンタジーだから魔法は使い放題!かと思いきや、実際は科学。だから、無から有を生み出せない。素材もいるし、加工する必要もある。
それにどれだけ魔法が使えても、人に騙され、殴られ、さらに自由奔放なヒロインに振り向いてもらうことすらできていない。
そんな主人公にどうにか幸せになってほしくて、恋路がうまくいくのか、あの嫌味な奴に仕返しするのはいつなのか、スッキリ清々する瞬間を感じたくて”一刻も早く読み進めたい”と思ってしまうんです。
本から目を離すだけで、映画の途中にCMが入ってせっかくの盛り上がりを中断されるあのうっとうしさと同じ感覚になるんですよね。
実際にありえなさそうなファンタジー的な空気も漂わせつつ、現実に起りうるかもしれない出来事で読者を簡単に作品の中に引き込んでしまう。恐ろしい作品です。
率直な感想
読み進めたい、でも終わってほしくない
でも、”現実”というCMに邪魔されたくないからと、本から目を離さず物語をどんどん読み進めていくと今度は”物語が終わってしまったら寂しい”と思い始めてくることでしょう。
この本の終盤に差し掛かった時、私も例にもれず寂しくなってしまいました。明日から一体何を読めば…という喪失感に襲われるんです。
そして同時に感心しました。本当に物語が終わってしまうのが寂しい、なんてことを思わせる本があるんだって。ただのキャッチコピーじゃなかったのか、って。笑
”風の名前”ぜひ日本でも有名になってほしい

本なのに、目の前に並んでいるのは文字だけなはずなのに、まるで映画を見ているかのような躍動感と臨場感を味わえる作品”風の名前”。
映画館なんてこの著者さえいればいらないんじゃない、とまで思わせる素晴らしい表現力で、読者を一瞬で本の中の世界に飛ばす魔力を持つ物語です。
本当に日本でも有名になってほしい。人気になってほしいです。
全てにおいて、ハリポタ越えの異名は伊達じゃないと言わせていただきたいと思います。
日本で人気にならない残念な理由
日本語版の表紙がダサい
ここまで”風の名前”を絶賛してきましたが、ではどうして日本でこの本が有名にならないのか…
それは私が思うに、”日本語版の表紙がとんでもなくダサいから”です。
上の画像を見てください。左が外国語版・右が日本語版です。(この日本語版は現在絶版になっており、現在ではハヤカワ文庫から異なる表紙で出版されています。)
新しく出版されたバージョンであるハヤカワ文庫からの”風の名前”も、子供向けのカルチャー本のような扱い…
こんな表紙だから、初めて手に取ろうと思う人が少ないんだと思っています。だって、内容はホントに最高なのに売れないっていうのは、そういう理由しか考えられないと思うのです。涙
ハヤカワ文庫の本はこれ↓
外国語版はこれ↓
これじゃ大人はなかなか手に取れないですよ…でも、だからこそ私は声を大にして言いたいです。表紙に騙されないでください…涙
中身は本当に最高なのです。だって、この本を読むためにわざわざ英語、勉強したくらいですもん私…
まとめ
好き勝手語ってまいりましたが、ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストにも載ったことがあるこの”風の名前”、本当に素晴らしいので、ぜひ一度読んでみてくださいね。
オリジナルバージョン(英語)の方は、
- 第1作目『The Name of the Wind
』
- 第2作目『The Wise Man’s Fear
』
- 外伝『The Slow Regard of Silent Things
』
が今のところ刊行済。
日本語では
に分かれてハヤカワ文庫から出版されています。
筆者イチオシ本です。ぜひ騙されたと思って読んでみてください。